海賊の娘 |
プロローグ |
幼い頃というのは、きらきらした蜃気楼のようなものなのだと気付くのは、大人になったからだろうか。幼いながらも真剣に夢を語っている子供達は、その未来に何を見い出すのだろう。
「わたしは、大きくなったらお兄様のお嫁さんになるの」
幼馴染の子供達が順番に将来の夢を語っている。何がきっかけでこのような話になったのかはさっぱり分からない。それでも子供達は幼いながらも真剣だ。
3人が他愛のない子供らしい夢を語り終え、最後に残った女の子の順番が回ってくると、彼女は断固とした口調で宣言した。真っ直ぐな蜂蜜色の髪は、海からの風にすっかり乱されている。
「ばっかだなぁ、レイは。兄妹で結婚出来るわけないだろ」
幼い男の子が幾分不機嫌に反論する。
「出来るもん!お兄様とわたしは血が繋がってないんだもん」
「出来ないったら、出来ないっ!」
「出来るもんっ!」
可愛らしい喧嘩が始まった。やんちゃ盛りの男の子は容赦がない。散々からかって、女の子の海の色を写し取った瞳から涙が盛り上り始めると、逃げるように走り去ってしまった。その様子を館の中から見守っていた女の子の父親と兄は、顔を見合わせ微笑みを交わすと、立ち上がった。
何度も確かめたことがあるから答えは分かっていた。それでもどこか不安げにレイと呼ばれた女の子は問うたのだった。
「レイとお兄様は、血が繋がってないから結婚できるでしょう、お父様?」
問われた父親は、思わず微笑んだ。血の繋がりの意味など5歳の女の子には分かるはずもないが、それを教えたのは他でもない彼だった。
「出来るとも。アレックスとレイが大人になってもそう思うのなら、ね」
大きな父の手が頭を撫でると、レイはようやく安心したように笑んだ。そして物心ついた頃からレイの最も大切な人となった兄に笑顔を向けるのだった。
「レイをお嫁さんにしてくれるでしょう?」
「もちろんいいよ」
そう言うと年の離れた兄は妹を抱き上げると頬に口付けた。
何もかもが輝いていた。
そして月日は流れていく。
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