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月 光
第1章 1.東の月
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 世界は四つの大陸からなっている。
西大陸と東大陸の間では国交が盛んだった。が、南大陸と東・西大陸とは古い時代の戦争の名残からかあまり交流は持たれていなかった。北大陸はどの大陸ともほとんど交流を持たない。それに東・西大陸と南大陸と北大陸の間に横たわる広い海峡も、国交を遠ざける一つの要因でもあった。

 四大陸の中で最も大きい西大陸は、西洋文化圏と俗に言われ、その8割をアルカディア帝国、及びそれに属する国に占められる。帝国とは別の独立国家といえば、アルカディアの南に小さな公国が、北に独立した王国や小国がいくつかあるだけだが、それらの国を全て合わせても帝国の国土の3割ということになる。
 西大陸の東端からそう広くは無い海峡を渡ると、主に東洋の文化圏となっている東大陸がある。西と東の大陸は太古の昔は陸続きであったという。気の遠くなるような長い年月を経て、大地が少しずつ移動した結果、細長い大河のような海峡が出来上がったのだった。

 そういったわけで、東西の大陸は今では生活様式や習慣こそ異なるものの、信仰する神々は、元は同じものだったと考えられている。しかし西大陸での信仰はほとんど象徴として存在しているだけだったが、東大陸では独自に進化を遂げた信仰が深く根付いている。

 また、二つの大陸の民族もはっきりと枝分かれしている。
 東大陸には大小さまざまな国が存在しているが民族は一つで、黒い髪、黒い瞳の民族がそれぞれの国に分かれている。 西大陸には様々な髪の色、瞳の色の民族がそれぞれの国を概ね形成している。
 西大陸と東大陸では言葉も違っていたが、貴族ともなればどちらの言葉でも会話が出来る程度の教育を施される。それほど二つの大陸は近しい関係なのだった。

 青龍国は大陸間を隔てる海峡から、2つの国を挟んで内陸部に入ったところに在る、四方を国々に囲まれた小国である。宝石を産出する鉱山と絹織物が盛んで、適度に財力を持った長い歴史を誇る国である。
 しかしそれだけでは昨今、国は成り立ってゆかないのが常である。強大な富と軍事力を誇る帝国の庇護を受けようと、娘を皇帝の後宮へと喜んで差し出さなければならなかった。

「青龍の姫を無理に娶れとは申しませんよ。たまには陛下も気晴らしが必要でしょうから」
 幼い頃から傍にいる、父の様にも思っている宰相は優しい微笑とともに言った。カイはぼんやりと空を凝視していた視線をドレイクに向けた。
 彼の目の前で物思いに耽るなどとんだ失態だ。優しい思いやりが、嬉しくもあるが僅かに気恥ずかしく感じたカイは、居心地の悪い気持ちを気取られぬようにして苦笑する。

 国を治めるということは個人を殺し、全て国に捧げる、ということなのだから。

「お前にはこれ以上抗えそうにないな。仕方がない。行ってみるとしようか……」
 こうして若き皇帝は東大陸の国へと旅立つことになった。

 ドレイクはそっと心の内で神々に祈った。願わくば青龍の姫が皇帝の孤独を癒してくれることを……。

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