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月 光
第2章 3.願い
<3>

 ぐったりした翡翠を横たえると、体重をかけない様に翡翠の顔の横に肘をつき、わずかに身を起こした。翡翠の右手を掴んだカイは、自分の頬に小さな掌を宛がった。それにそっと唇を押し当ててから、自分の首筋へ、それから胸元、引き締まった腹筋と導き、最後に自分の固く張りつめた欲望に触れさせた。
 びくんっと慄いて手を離そうとする翡翠の手を大きな手で包み込みむと、カイは自分の欲望の証をやんわりと握り締めさせた。
「翡翠、私が分かるか?」
 本能的に羞恥を覚えた翡翠は頬を朱に染め上げ、それでも素直に頷いた。翡翠の指先が触れた途端に脈打ったそれはカイの一部なのは間違いようがない。
「これが今からおまえの中に入って、一つになるんだ」
「カイと……一つに?」
「そうだ。怖いか?」
「怖く…ないわ……」
「いい子だ……」
 カイは深く口付けながら、翡翠の中にゆっくりと分け入る。濃厚な愛撫で蕩けさせられた秘花は、たっぷりと潤っている。翡翠の身体を気づかいながらも、それはゆっくりと確実に奥深く貫いていった。カイが翡翠の体も心も得た瞬間だった。

「あぁっ」
 圧倒的な容量を伴って、身を割り中へと入ってくる感触はとても苦しい。どうしても逃げようとする身体を、カイは許さなかった。大きな手にしっかりと腰を捉えられ、結合は深くなる。
 けれど、痛みと苦しみだけでは決してなかった。欠けた何かが埋められるように、それが翡翠を満たし、カイの温もりを最も強く感じる喜びを教える。自分の中で脈打つそれは確かにカイなのだ。

 きつく締め付ける翡翠の中に包まれ、カイもまた隙間なく満たされていた。痛みを堪えて眉根を寄せている翡翠の顔中に口付けの雨を降らせる。
「愛してる、翡翠」
 つがいの鳥のように何度も口付けを交わし、その合間、僅かに唇を離すとカイの甘い声が翡翠の鼓膜を震わせる。そうして、ようやく痛みに強張った翡翠の身体から力が抜けると、カイを狂わせるきつい締め付けから僅かに解放された。カイは、知らずに抑えていた息をふっと漏らした。
「…カイ……?苦しいの……?」
 震える指先がカイの頬におずおずと触れる。翡翠の方が余程苦しいだろうに、自分を気遣う翡翠が愛おしすぎて、カイの胸を引き絞るような切ないものが満たす。
「違うよ、翡翠。おまえの中はとても温かくて……、わたしを強く包み込んで……、気持ちが良すぎてどうにかなってしまいそうだ……」
「良かった……、カイが苦しくなくて」
「っ……!」
 カイの中で何かが音を立てて弾け飛ぶ。
「すまない、翡翠。今夜はもう優しくは抱いてやれない……」
 本能が命じるままに突き上げていた。翡翠が愛しすぎて優しくしてやりたいのに、カイにはもう自分を押さえられなかった。
「あ……っ」
 痛みとカイを受け入れた悦びで、翡翠こそどうにかなってしまいそうだった。激しく突き上げらるまま揺すぶられて、翡翠の手が何かに縋るようにシーツを掴む。
 「はっ…ぁ……あっ……あっ……あっ」
 突き上げる動きに合わせて、翡翠の声に甘さが混じり出す。触れ合う肌はしっとりと汗ばみ、吸い付くように馴染んでいた。繋がった場所が熱く溶け合い二人の境い目がなくなる。深く強く結びついた心と体と、そして太古の昔から続けられる愛の行為の前では、地位も義務も何の意味も持たなかった。そこにあるのは、ただ互いの愛する人の存在だけが全てだった。

 翡翠の中がびくり、びくりとカイを締め付けながら痙攣している。早く激しい抽挿を滴る蜜が後押しする。ぎりぎりまで抜き最奥を突き上げる。そのたびに翡翠の最も敏感な最奥をカイの切っ先が正確に穿ち、張り出した部分が粘膜を擦り上げる。繋がった二人を遥か高みへと押し上げる。
「あっ…カイ……ぁ…カ…イっ……ああぁぁっ」
「翡翠っ」
 カイは翡翠に噛み付くように口付けて強く抱き締めた。翡翠が甘い声で自分の名を呼び、高みにのぼりつめたとき、狂おしい快感がカイの背中を駆け抜けた。高い悲鳴を上げた翡翠の、ぐっと締め付けた中を最奥まで突き上げて、愛の証を最後の一滴まで注ぎ込んだ。
 
 激しい脱力感に襲われて、カイは翡翠の上に倒れこむように覆いかぶさった。それはすさまじい快感だった。欲望のための行為には、なんの意味もないとカイはそう思っていた。いや、今まで見出せなかったと言った方が正しいだろう。だが、それは大きな間違いだったのだ。愛しい人の体内に己の精を放ち共に果てること。それが子を作るための行為だとは知識として知っている。しかし、それは愛しさゆえの行為だと、そして心と身体が深く繋がり合うことの本当の意味をカイは初めて知ったのだった。

「…カ…イ……?」
 カイの温もりに包まれて、翡翠は眠りに落ちようとしていた。が、ふと不安を覚えてかけがえのない大切な人を呼ばわった。
「ここにいる。ここにいるよ、翡翠。安心してお休み」
 乱れた前髪をそっと掻き揚げてやる。そうして露になった額に口付けると、翡翠の肩を抱く腕に力を込める。
 自分の胸に頬を預け、脚を絡め合わせて横たわっている翡翠の片手が、探し物をしているように胸板をかすかに彷徨っている。その手に指を絡めると、翡翠もすぐに指を絡めてきた。そんな仕草も愛しくてカイをたまらない気持ちにさせたが、安心させるようにずっと小さな手を握り続けていると、程なく健やかな寝息が聞こえてきた。

 この手を離すまい。カイもまた翡翠の温もりに包まれながら眠りに落ちていった。

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